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アニメにおけるジェンダー問題を「プリキュア」から深堀りする

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日本のアニメは、世界中の人々を魅了する文化として広く知られています。

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しかしその一方で、作品の中に描かれる「ジェンダー表現」については、長年にわたり議論が続いてきました。

特に女性キャラクターの描かれ方や、男女の役割の固定化などが、社会的な課題として指摘されています。

本記事では、そんなアニメ業界全体の現状を見つめ直しながら、『プリキュア』という国民的作品を通して、ジェンダーの課題と変化の兆しを考察していきます。

日本のアニメ業界におけるジェンダー問題の現状

日本のアニメは単なる娯楽にとどまらず、いまや社会の価値観や文化的背景を映し出す鏡のような存在となっています。

そのため、作品に潜む性別表現の偏りは、社会全体のジェンダー観とも深く結びついています。

アニメ業界では、しばしば女性キャラクターの描写や制作現場の構造、言葉遣いの違いなど、複数の側面から問題が指摘されています。

ここでは、主に三つの観点から現状を整理してみましょう。

女性キャラクターの性的対象化と「男性視点」の構造

多くのアニメ作品では、女性キャラクターが「視覚的な魅力」で消費される傾向が続いています。

極端に誇張された身体表現や、露出度の高い衣装、さらには性的なカメラアングルといった、男性視聴者視点で構築されているケースがいまだ少なくありません。

2017年に発表されたFairPlanetの研究によると、マンガやアニメにおける女性像の描き方が、社会に根付くジェンダーステレオタイプを強化している可能性が示されています[1]。

特に「可愛さ」や「従順さ」といった属性が女性キャラクターの中心に据えられることで、女性が持つ多面的な魅力や知性、主体性が見えづらくなってしまうという指摘もあります。

こうした描写の積み重ねは、視聴者の無意識に「女性はこうあるべきだ」という固定観念を植え付けるリスクを孕んでいます。

アニメ表現の自由は尊重されるべきものですが、その自由が他者の尊厳を損なうものであってはならないという視点も必要です。

ジャンル別に見るジェンダー表現の偏り

アニメにおけるジェンダーの偏りは、作品のジャンルによっても特徴が異なります。

少年・青年向けアニメでは、登場する女性キャラクターが少なく、登場しても「理想の女性像」として描かれることが多い傾向があります。

たとえば母性的で清楚、あるいは過度に性的な存在として描かれ、物語の中心には男性主人公が据えられる構造です。

一方、少女向け作品では「理想の男性との恋愛」や「美しくなること」が女性の幸福として描かれる傾向が見られます。

恋愛の成就や外見の変化が成長の証として描かれ、内面的な成熟や自己実現が軽視されるケースもあります。

このように、男女双方の作品に共通して見られるのが、登場人物の性別によって役割や行動が決められ、結果的に視聴者が抱く性別観にも偏りが生まれてしまうのです。

作品の多様性を広げるためには、こうした構造そのものを見直す視点が欠かせません。

「役割語」と言葉のジェンダーギャップ

アニメに登場するキャラクターの言葉遣いにも、ジェンダーの影響が色濃く表れています。

大阪大学の金水敏名誉教授の研究によると、アニメやマンガにおける「役割語」と呼ばれる言語表現が、日本社会のジェンダーギャップを助長している可能性があるとされています[2]。

たとえば男性キャラクターには「俺」「僕」「私」「わし」など多様な自称が与えられている一方で、女性キャラクターは「私」「あたし」といった限られた言葉しか使われないことが多いのではないでしょうか。

また、女性が命令形を使う場面は極めて少なく、「お願い」や「頼むね」といった柔らかい表現に置き換えられる傾向があります。

これにより、言語的にも「女性は控えめで従順」という印象が強化されてしまうのです。

こうした言葉の使い方は、幼少期からアニメを通じて自然と身についていくものです。

そのため、作品が持つ表現の力を意識的に見直すことが、社会全体のジェンダー平等を進めるうえで大きな意味を持つといえるのではないでしょうか。

プリキュアとジェンダー問題「女の子だってヒーローになれる」20年の挑戦

日本のアニメの中でも『プリキュア』シリーズは、ジェンダー表現のあり方を時代とともに進化させてきた代表的な作品です[3]。

2004年の初代『ふたりはプリキュア』から始まり、20年以上にわたり「女の子だって暴れたい」という理念を貫いてきました。

単に可愛いヒロインを描くだけではなく、「自分の力で立ち向かう女性像」を描いたことで、子どもたちに新しい価値観を示してきたのです。

「女の子だって暴れたい」──シリーズ理念の原点

初代プリキュアの生みの親である鷲尾天プロデューサーは、当時「女の子だって暴れたい」という言葉を掲げました[4]。

これは、それまでのアニメに多く見られた「女の子=守られる存在」という固定観念に対する挑戦でした。

女の子たちが自分の力で困難に立ち向かい、仲間と支え合いながら世界を救う。その姿がプリキュアの根幹にあります。

さらに「自分の足で凛々しく立つ」という理念も重要です。

泣いたり悩んだりしながらも前に進む姿は、従来のヒロイン像とは異なり、現実を生きる女性たちの共感を呼びました。

その精神は20年を経た現在もシリーズ全体に受け継がれています。

プリキュアは単なるアニメの枠を超え、「強くて優しい女性像」を社会に提示する存在となったのです。

制作現場での徹底したジェンダー配慮

プリキュアシリーズが高く評価される理由のひとつに、制作陣による丁寧なジェンダー配慮があると言われています。

作品の中では「女の子だから」という台詞を決して使わないことが徹底されてきました[4]。

特に大人のキャラクターが子どもに向かって性別で行動を制限するような発言をしないよう、脚本段階から細かくチェックされているのです。

また、女性キャラクターの描写においても慎重な工夫が施されています。

変身シーンでは「裸」を連想させる表現を避け、光や金属的なエフェクトで表現するなど、性的対象化を排除する演出が徹底されています。


さらに、スカートの中が見えないようデザインされており、スパッツの着用やカメラアングルの制限も制作方針のひとつと言えます。

こうした細部の積み重ねが、プリキュアを「子どもが安心して観られる」シリーズとして支持され続ける理由でもあります。

ジェンダーに対する配慮は、作品の質を落とすものではなく、むしろ子どもたちに正しい価値観を自然に伝える手段となっているのです。

多様性の進化と「男性プリキュア」の誕生

プリキュアが真に革新的だったのは、ジェンダーの境界を越えたキャラクター表現を積極的に取り入れてきた点にあります。

2018年放送の『HUGっと!プリキュア』では、若宮アンリという男性キャラクターが「キュアアンフィニ」として一時的に変身し、「男の子だってお姫様になれる」というメッセージを届けました。

これはシリーズの歴史の中で大きな転換点となりました。

さらに2023年の『ひろがるスカイ!プリキュア』では、シリーズ初のレギュラー男性プリキュア「キュアウィング(夕凪ツバサ)」が誕生しました。

彼は男の子でありながら、物語の中で性別を特別扱いされることはありません。

能力や思いやりといった個性そのものが重視され、「性別を超えたヒーロー像」が描かれているのです。

この変化はアニメにおけるジェンダーレスの象徴的な出来事として、国内外から高く評価されています。

子どもたちに「誰でもヒーローになれる」という当たり前の価値観を伝えることで、プリキュアは時代の先を行く存在として進化を続けているといえるのではないでしょうか。

日本のアニメが社会の変化とともに反映し続けるために必要なこと

アニメの世界は、単なるフィクションではなく、社会の価値観や人々の意識に大きな影響を与える文化的な力を持っています。

そのため、アニメの中でどのようなジェンダー表現がされているかは、次の世代がどんな考え方を育てていくのかを左右する重要な要素だといえるでしょう。

アニメ業界には、これまで積み重ねてきた伝統的な描き方を尊重しつつも、新しい時代に合わせた表現の更新が求められています。

プリキュアのように「性別にとらわれない強さ」を描いた作品が登場していることは、非常に希望のある変化です。

アニメが社会を変えるためには、制作側のみならず私たち視聴者も同様に「ジェンダーリテラシー」を持つことが必要です。

何気ないセリフや演出の中に潜む偏見を見つめ直すことで、私たちは作品をより深く楽しみながら、その背景にある社会の構造も理解できるようになります。

そしてもう一つ大切なのは、アニメを通して「多様性」を自然に受け入れる力を育むこと。

“性別や年齢、立場を問わず、誰もが自分らしく生きられる社会”

その理想を描き出す力こそ、アニメという表現が持つ最も美しい可能性だといえるのではないでしょうか。

今後の日本アニメが、世界に誇れる文化としてさらに発展していくためには、作品を作る人も観る人も一緒になって、「ジェンダーの枠を超える物語」を育てていくことが求められています。

それはきっと、子どもたちが未来を見つめるとき、自分の可能性を制限せずに歩んでいける力につながっていくはずです。

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KOBIT編集部:Fumi.T)

<参考文献>
[1]FairPlanet,On manga, anime and sexism,available at https://www.fairplanet.org/story/on-manga-anime-and-sexism/?utm_source=chatgpt.com
[2]大阪大学,「キャラクターの話し言葉が、ジェンダー・ギャップを助長する?「役割語」に見る、日本社会の性格差問題。」,available at https://dialogue.osaka-u.ac.jp/282/
[3]東映アニメーション,「プリキュアシリーズ公式ポータル」,available at https://anime-precure.com/
[4]{中央公論.jp,「プリキュア「女の子だって暴れたい」から20年――21世紀型アニメヒロインが大人をもひきつけるわけ」,available at https://chuokoron.jp/culture/125064.html
[5]東映アニメーション,「HUGっと!プリキュア」,available at https://www.toei-anim.co.jp/tv/hugtto_precure/
[6]東映アニメーション,「ひろがるスカイ!プリキュア」,available at https://www.toei-anim.co.jp/tv/hirogaru-sky_precure/

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