映画『きみの色』を多様性・ジェンダー・孤独を切り口にレビューする
2024年8月30日に公開されたアニメーション映画『きみの色』[1]。美しい映像表現と音楽に彩られた青春物語でありながら、現代社会の課題を静かに映し出す作品でもあります。
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人の「色」が見える少女トツ子と仲間たちの成長を描くこの映画には、多様性やジェンダー、若者の孤独といったテーマが込められています。
本記事では、君の色のストーリーを振り返りつつ、その背景に潜む社会課題を読み解き、私たちができる支援について考えていきます。
映画『きみの色』|山田尚子監督が描く青春と「色」の物語とは
映画『きみの色』は、『聲の形』『リズと青い鳥』で知られる山田尚子監督が手がけた注目作です。
脚本を吉田玲子、音楽を牛尾憲輔、アニメーション制作をサイエンスSARUが担当し、主題歌は主題歌にMr.Children「in the pocket」[2]が選曲されるなど、公開前からわ高い関心を集めました。
また、「THE COLORS WITHIN」として北米や英国での上映を皮切りに海外からも注目を集めた作品です。
本作では、主人公の日暮トツ子が仲間と出会い、バンド活動を通して自分自身の悩みや葛藤と向き合いながら成長していく姿が描かれています。
個性や多様性を象徴する「色」というモチーフが物語全体を彩り、青春の瑞々しさと社会的なテーマが重なり合う独自の世界観を生み出しています。
ここではまず、より物語のテーマを深めるために、登場人物たちと、その関係性の変化を順に見ていきたいと思います。
人の「色」が見える少女・日暮トツ子
物語の中心となる日暮トツ子は、他人の感情や雰囲気を「色」として感じ取る特異な能力を持っています。
喜びや悲しみ、不安や希望といった心の揺らぎが色彩となって彼女の前に現れるのです。しかし、不思議なことに自分自身の色だけは見ることができません。
そのため、トツ子は周囲を深く理解できる一方で、自分という存在をどう表現すれば良いのか分からずに苦しみます。
人と違う感覚を持つ彼女は、周囲との距離を意識し、孤立感を抱えてしまいます。
この孤独こそが彼女の成長物語の出発点となり、やがて仲間との出会いによって「自分らしさ」と向き合う契機となっていくのです。
「きみ」と「ルイ」との出会い
トツ子の物語を大きく変えるのが、青い色に魅入られた存在感を放つ少女「作永きみ」と、音楽に情熱を注ぐ少年「影平ルイ」との出会いです。
きみはかつて学校を退学した経験を持ち、家族に真実を伝えられないまま葛藤を抱えて生活しています。
一方のルイは、母親からの期待に応えられない自分を責めながらも、音楽を続ける道を選んでいました。
二人とも社会や家庭の枠組みによる抑圧を背負っており、トツ子と同じように「生きづらさ」を抱えています。
それでも彼らは互いに心を通わせることで少しずつ前に進み、孤立していた心に温かさを取り戻していきます。
この三人が揃うことで、物語は友情と淡い恋心が入り混じる青春群像劇へと大きく広がっていきます。
バンド活動と学園祭ライブへの挑戦
トツ子・きみ・ルイの三人は、共通の情熱を注げる場としてバンドを結成します。
音楽を奏でる時間は、彼らにとって自分の感情や思いを素直に表現できる大切な居場所となりました。
バンド活動は単なる趣味の枠を超え、孤独を癒し、規範に縛られた学校生活から解放される瞬間を与えてくれます。
そして三人が目指す舞台である学園祭でのライブでの成功を夢見て練習を重ねる過程で、三人はそれぞれの葛藤と正面から向き合い、自分自身を受け入れていく成長を遂げます。
舞台に立つ姿は、青春のきらめきだけでなく、現代の若者が抱える課題と向き合う姿勢そのものを象徴しているといえるかもしれません。
きみの色の「色」が映し出す社会課題
『きみの色』において「色」というテーマは、視覚的な美しさを超えて、人間が抱える内面や社会との関係を映し出す象徴として機能していると考えることができます。
色には優劣も正解もなく、それぞれが固有の個性や価値を持っています。
その描写は、多様性を尊重する現代社会の理想を鮮やかに反映しているといえるでしょう。
一方で、作中の登場人物たちは社会や家庭からの期待、学校という規範的な環境に縛られており、必ずしも自由に自分の色を表現できているわけではありません。
そのため、この映画は「多様性を認めながらも、実際には抑圧や孤立が存在する」という社会の今を私たちに示していると言えるかもしれません。
「色」が象徴する多様性と個性
トツ子が人の色を見分けられるという特別な力は、一人ひとりが持つ個性の比喩でとして描かれています。
青や赤、緑といった三原色は、無限に混ざり合うことで新たな色を生み出せるように、人の関係性や社会も多様性を受け入れることで豊かになります。
しかし作中では、その個性が必ずしも歓迎されるわけではなく、同質性を求められる学園生活の中で息苦しさを感じる場面も描かれています。
この点は、現代の社会で「違い」を理由に孤立や排除が起こる構造を映し出しているように捉えることができます。
ジェンダーと規範からの解放
本作では、男女が共に活動するバンドや友情と恋愛の境界があいまいに描かれることで、伝統的な性役割や恋愛観が揺さぶられています。
また、ルイは母親からの期待に悩み、きみは過去の退学という事実を抱えており、それぞれが社会的規範や家族の価値観に縛られて生きています。
こうした姿は、現代の若者が直面する「規範に合わせるべきか、それとも自分らしさを貫くべきか」という問いを象徴しています。
性別や立場に基づいた固定的な役割から自由になることは容易ではありませんが、三人の挑戦はその可能性を示しています。
ジェンダーや規範に縛られずに自分の色を認め合う未来を静かに提案しているように感じ取ることもできるのではないでしょうか。
若者の孤独とコミュニケーションの課題
また、友情や恋愛のきらめきを描く一方で、若者が抱える孤独や不安を見逃さずに描き出しています。
トツ子は自分の色が見えないことに悩み、きみやルイもまた秘密を抱えて周囲から距離を取っています。
外側からは普通に見えても、心の奥では葛藤を抱え込む姿は現代の若者のリアルそのものです。
しかし、彼らがバンドを通じて互いに本音を打ち明けられるようになる過程は、孤独を解消する大きなヒントを示しています。
自分の弱さや秘密を共有できる相手の存在が、どれほど心の支えになるかを作品は強調していると言えます。
『きみの色』が問いかけることから考える、私たちにできる支援の力
『きみの色』は、美しい映像や音楽で楽しませてくれるだけでなく、現代社会が抱える深刻な課題を静かに映し出しています。
物語に登場する三人の若者は、それぞれが規範や家族の期待に縛られ、自分の居場所を見つけられずに苦しんでいます。
しかし、バンド活動を通じて互いに心を開き、自分の「色」を肯定できるようになる姿は、多様性を尊重し合う社会の大切さを鮮やかに語りかけてきます。
この作品が示しているのは、一人ひとりが違う色を持ちながらも、その違いを認め合うことで社会はより豊かになっていくということです。
そして、孤立してしまった若者にとって、心の内を受け止めてくれる相手や、自分らしさを表現できる場がどれほど重要かを教えてくれます。
私たちにできることは決して大きなことばかりではありません。
日常の中で「話を聞く」「思いを受け止める」といった小さな行為を積み重ねることが、孤独で苦しむ方の支えにもなります。
また、地域や学校で多様性を認める取り組みを広げることも、未来を生きる世代にとってかけがえのない環境づくりにつながります。
『きみの色』は、一見すると青春映画の枠に収まる作品に見えますが、その奥には現代社会を映す鏡のような問いかけが潜んでいます。
観る人それぞれが自分自身の「色」と向き合い、隣にいる誰かの「色」を認め合う、そんな社会課題に目を向けるきっかけになるのではないでしょうか。
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(KOBIT編集部:Fumi.T)
<参考文献>
[1]映画「きみの色」,available at https://kiminoiro.jp/
[2]Mr.Children公式サイト,available at https://www.mrchildren.jp/
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