「利他的行動」や「社会貢献」の理論ってあるの? 〜公共経済学の観点から〜
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「社会のために行動する」は科学・工学で説明できるか?
今回、「お宝エイドブログ」に寄稿させていただくにあたって、私自身の経験のなかで何か「NPOの支援」に結びつくものを持っているかについて自省してみました。
理系の悪い癖で、「なぜ人は支援をするのか」という原理原則から納得したいという想いが先行してしまい、気がつけば、私の母校である東京工業大のOCW(Open Course Ware。講義ノートの公開システム)を探っていました。そうした行動を説明する科学、ないし工学の分野がなかったかを確かめるためです。
実際、人間の行動を説明する理論や、社会のなりたちを理論化して説明することのできる理論は様々あります。経済学もその一つだと言えますが、「合理的個人」を前提にする経済学では「人のためではなく、自分の利得のために人間は行動する」という価値観がまっさきに登場します(効用関数)。これではうまく「利他の心」を説明できる自信がないので、「ほかの分野にヒントがないか」…ということになります。
そんな要領で記憶を掘り起こしていたら、「公共経済学」という分野があったことに思い当たりました。学部生時代に受けた講義が面白かったことをよく覚えています。
公共経済学とは?
公共経済学とは、「国や地方公共団体などの公共部門が行う経済活動を、経済学の側面から分析する学問」とされます。
社会活動にはときに、さまざまなかたちで「負の側面」が存在します。たとえば、工場を稼働させると廃棄物や排気ガスを出すことや、乱獲をすると漁獲資源が減少してしまうなどです。これらを「負の外部性」といいます。
負の外部性があると、「自分の利益のためだけに行動すると、(自分を含む)みんながじわじわ不幸になることがある」ということです。負の外部性は一例にすぎませんが、公共経済学ではこのような事柄をうまく理論化し、「どんなケースが存在するか」「どんなケースに、どんな対策を打てばうまくいくか」を扱っています。
そうした分野ならば、「NPOを支援する」ということについて、何か面白いヒントがあるかもしれません。当時の講義メモなどを引っ張り出しながら、より詳しく考えてみました。
公共経済学のキーワード – なぜ「わたしが」支援するのかを説明するもの
社会に必要な支援は「自分ではない誰か」がやればそれでいい、と考えることもできます。そうした中、なぜ「わたしが」支援したいと思うのかは、考えてみれば不思議です。
「ほかの誰かがやってもいいはずの『善いこと』を、わたしがやる」ということについても、じつは様々な経済理論があります。というよりも、「人は社会のためになることをしないという理論」がまず存在しています。ゲーム理論という分野では、「みんなが協力しなければ、みんなが損するとわかっていても、わたしは協力しない」という行動は、ときに合理的であると示されています(囚人のジレンマ) [1]。
ですが、誰もがそのように振る舞えば社会は成り立たないので、こうした状況に実際どう立ち向かっているのかもまた、公共経済学において研究されてきました。私が学生時代に受けた講義の中で、個人が以下の2つを持っていることが重要とする文献を読んだことがあります。
自己効力感(Self-efficacy)
「自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できる」と考えているか、いないか。
一般的信頼(General trust)
「世の中のほどんどの人たちは信頼できる」(英語で“Most people in society are trustworthy”)と考えているか、いないか。
当時の講義資料は残念ながら残っていませんでした。しかし、「自己効力感」や「一般的信頼」は、囚人のジレンマから抜け出すための「協調行動」と関わりが深い、という示唆についてはよく覚えています。
自己効力感と一般的信頼は「支援したい心」を育てる?
「みんなが損するとわかっていても、わたしは協力しない」に陥らないためには、自己効力感と一般的信頼が必要なのだとすると、それは「支援する」ために必要なマインドセットでもあるはずです。
これは考えてみれば当たり前のことです。「自分が支援をしたいと思えば、支援の力を正しく発揮して、それをやり遂げられる」ということと(自己効力感)、「支援するべき”誰か”は信頼に足る善い人間だ」ということ(一般的信頼)の両方がなければ、「支援しよう」とは思い立てないでしょう。
確かにこれらは「わたしが」支援したいと考えるにあたり必要な要素と考えられそうです。
個人からの「支援」の具体的方法ならば、NPOへの寄付ということに
以上は、私が過去に学んだことのある公共経済学の言葉で「支援の意義」や「支援のための心理」を説明してみました。
社会には「自分さえよければいい」では上手く立ちいかない領域があることは、公共経済学の分野で示されています。そうした状況を打ち破るプレイヤーは「政府」や「NPO」が思い当たります。内閣府のホームページでは寄付先としてNPOを挙げており [2]、国に対して活動原資を提供したいと考えれば、結局はNPOに寄付することが推奨されるようです。実際に「自分の力で社会に貢献する」ことに興味が湧いたならば、こうした行動から始めることになりそうです。
お宝エイドは個人からの「物品寄付」を受け付けて換金し、指定されたNPOの活動原資として送り届ける仕組みです。 「社会に貢献するといっても、具体的にどんな行動をとればいいかが分からない」「自ら活動するほどの体力や時間がない」と考える方でも、「家にある”お宝”」を郵送するだけで支援になります。まずはこうしたことから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献
[1] ゲーム理論入門 (日経文庫―経済学入門シリーズ) _ 武藤 滋夫 _本 _ 通販 _ Amazon
KOBIT編集部:滝田 潤 KOBIT公式サイト
東京工業大学工学部 社会工学科出身。在学中に専攻していたOR(オペレーションズ・リサーチ。最適化・統計学・経済学などを包括する分野)を駆使して「企業の経済活動支援・社会をちょっとよくする活動」に従事している。趣味は小説を書くこと。
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