ファドとは?ポルトガル音楽の歴史と名盤、ポルトガルギターの魅力を解説
ファドとは?ポルトガルで育まれた歌の文化
ファドは、歌手の情感豊かな歌声と弦楽器の伴奏によって表現される、ポルトガルを代表する音楽文化です。
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ポルトガル語ではFadoと表記され、その名称は運命や宿命を意味するラテン語のfatumに由来するといわれています。
ファドには悲しい音楽という印象がありますが、歌われるのは悲哀だけではありません。
届かなかった恋、過ぎ去った時間、遠く離れた故郷、港町で暮らす人々の日常、人生への諦観や喜びなど、題材は多岐にわたります。
歌詞の意味をすべて理解できなくても、歌手の声の揺らぎやポルトガルギターのきらめく音色から、込められた感情を受け取れることがファドの魅力です。
ファドは一曲の形式を指すだけではなく、歌唱法、楽器、詩、演奏空間、地域の記憶が結び付いた文化でもあります。
そのため、古いレコードやCD、ポルトガルギター、楽譜、コンサートのポスターなどにも、音楽を楽しむ道具という役割を超えた資料的価値があります。
ファドを理解する鍵となるサウダーデ
ファドを語る際によく登場するのが、ポルトガル語のサウダーデです。
日本語では郷愁や憧憬などと訳されますが、一つの言葉へ完全に置き換えるのは難しいとされます。
サウダーデが表すのは、失われた人や時間を懐かしみ、もう戻らないと知りながら再会を願うような複雑な感情です。
悲しみの中に温かさがあり、寂しさの中に愛情も残されています。
ファドの歌手は声量だけに頼らず、言葉の置き方、息遣い、間、抑揚によって、こうした感情を伝えます。
ユネスコ無形文化遺産に登録されたファド
リスボンのファドは、二〇一一年にユネスコの無形文化遺産へ登録されました。
評価の対象となったのは特定の名曲や歌手だけではなく、地域社会に根付いた演奏、詩作、楽器製作、継承の仕組みを含む文化全体です。
この登録は、ファドがポルトガル国内の娯楽にとどまらず、次世代へ引き継ぐべき人類の文化であることを示しています。
過去の演奏を収めたレコードや、実際に使われた楽器を残すことも、その文化を伝える手段の一つです。
ファドの歴史と発展
ファドの起源には複数の説があり、一つの音楽や地域だけから誕生したと断定することはできません。
一般には十九世紀前半のリスボンで、船乗りや労働者などが暮らす地区を中心に広まった都市音楽とされています。
港を通じて行き交った人々の歌や舞曲、ポルトガルの民衆音楽など、さまざまな要素が影響したと考えられています。
初期のファドは酒場や路地、私的な集まりなどで歌われました。
やがて劇場へ進出し、二十世紀にはレコード、ラジオ、映画を通じて全国へ普及します。
録音技術の発展によって、ある場所で一度だけ鳴っていた音楽が、国境や世代を越えて繰り返し聴かれるようになりました。
初期ファドを象徴するマリア・セヴェーラ
十九世紀の女性歌手マリア・セヴェーラは、初期ファドを象徴する人物です。
短い生涯を送った彼女については、史実と後世の物語が重なっており、ファドの伝説的な存在として文学や舞台、映画でも描かれてきました。
彼女が活動した時代には録音が残されていません。
その歌声を直接聴くことはできませんが、文章、絵画、楽譜、後世の映像作品などが記憶を伝えています。
音源が存在しない時代の音楽を知るうえでは、周辺資料も重要な手掛かりになります。
レコードとラジオによる普及
二十世紀に入ると、SPレコードやラジオがファドの普及を後押ししました。
演奏の場へ行けない人も歌手の声を聴けるようになり、人気ファディスタが国内外で知られるようになります。
古い録音物には、当時の歌唱法や伴奏法だけでなく、選曲、レーベルの意匠、演奏家のクレジットなども記録されています。
後年の再発盤では音質が調整されたり、曲順やジャケットが変更されたりすることがあるため、初期の盤と再発盤にはそれぞれ異なる魅力があります。
リスボン・ファドとコインブラ・ファド
ファドには地域や演奏環境による違いがあります。
代表的なのが、リスボン・ファドとコインブラ・ファドです。
すべての演奏を明確に二分できるわけではありませんが、両者の特徴を知ると、音源や楽器をより深く味わえます。
リスボン・ファドの特徴
リスボン・ファドは、アルファマ、モウラリア、バイロ・アルトなどの地区と深い関わりを持ちます。
男女双方の歌手がおり、恋愛、別れ、街の風景、生活の苦労など、幅広い題材が歌われます。
ファドを聴かせる飲食店や酒場は、ファド・ハウスと呼ばれます。
演奏が始まると会話を控え、歌声と楽器へ静かに耳を傾けるのが基本です。
聴衆との距離が近く、歌手と奏者が互いの呼吸を読みながら進める演奏には、録音だけでは捉えにくい緊張感があります。
コインブラ・ファドの特徴
コインブラ・ファドは、歴史ある大学都市コインブラの学生文化と結び付いて発展しました。
伝統的には男性が歌い、大学の黒いマントをまとって演奏する姿でも知られています。
夜の街で歌われるセレナーデとの関係も深く、リスボンのファドとは異なる端正で格調のある雰囲気を備えています。
使用されるポルトガルギターにも地域差があります。
コインブラ型はリスボン型よりスケールが長い傾向があり、調弦や音域にも違いがあります。
古い楽器を調べる場合は、外見だけで判断せず、寸法、内部ラベル、製作地、来歴などを総合的に確認することが大切です。
ファドに欠かせないポルトガルギター
ポルトガルギターは、ファドを象徴する弦楽器です。
一般的なクラシックギターとは異なり、金属弦を二本ずつ組み合わせた六コース十二弦が基本です。
洋梨形に近い胴と独特な巻き上げ機構を持ち、明るくきらめくような音を奏でます。
奏者は細かな装飾音や速い音の連なりを用いながら、歌手の言葉へ応答します。
単に和音で歌を支えるだけでなく、間奏や前奏を担い、ときには歌声と対話するように旋律を奏でるのが特徴です。
リスボン型とコインブラ型の違い
ポルトガルギターには、大きく分けてリスボン型とコインブラ型があります。
リスボン型のヘッドには渦巻きを思わせる意匠、コインブラ型には涙形や盾形に見える意匠が用いられることがあります。
ただし、製作者や年代による例外もあるため、ヘッドの形だけで種類を断定するのは避けた方がよいでしょう。
調弦、弦長、胴の形、音色も異なります。
楽器が本来どの様式で作られたか分からないまま弦を張ると、想定外の張力がかかる可能性があります。
長く保管されていた楽器を再び演奏したい場合は、ポルトガルギターや古い弦楽器に詳しい専門家へ状態確認を依頼すると安心です。
伴奏を支えるヴィオラ・デ・ファド
ファドでは、ポルトガルギターとともに六弦のギターが使われます。
ヴィオラ・デ・ファドなどと呼ばれ、和音やリズムを支える役割を担います。
編成によっては、低音域を担当するヴィオラ・バイショやコントラバスが加わることもあります。
ポルトガルギターだけが注目されがちですが、複数の弦楽器が作る音の層が、ファドの歌声を支えています。
古い写真やレコードジャケットを見る際には、歌手の背後にいる奏者や楽器にも注目すると、演奏編成の変化を読み取れます。
初めて聴きたい代表的なファディスタ
ファドの歌手はファディスタと呼ばれます。
同じ曲でも、歌手の声質や言葉の置き方によって印象が大きく変わるため、複数の歌手を聴き比べるのがおすすめです。
アマリア・ロドリゲス
アマリア・ロドリゲスは、二十世紀のファドを世界へ広めた代表的なファディスタです。
深みのある声と劇的な表現力を備え、ポルトガル国内だけでなく、各国で公演を行いました。
伝統的なレパートリーに加え、著名な詩人の作品も取り上げ、ファドの表現領域を広げた存在です。
初めて聴く場合は代表曲をまとめた編集盤が便利ですが、オリジナルアルバムや年代別の音源をたどると、声や録音技術の変化も楽しめます。
日本で発売されたレコードには、日本語の解説書や歌詞対訳、帯が付属する場合があり、日本におけるファド受容を知る資料にもなります。
カルロス・ド・カルモ
カルロス・ド・カルモは、リスボンの街と深く結び付いた男性ファディスタです。
落ち着きのある歌唱で知られ、伝統を受け継ぎながら、アルバム全体で一つの世界を作るような作品にも取り組みました。
個々の曲だけでなく、曲順やジャケットを含めたアルバム単位で鑑賞したい歌手です。
マリーザと現代のファド
現代ファドの入口として親しみやすいのがマリーザです。
伝統的な楽器編成を基盤としつつ、多様なアレンジを取り入れ、世界各地の聴衆へファドを伝えています。
このほか、ミージア、カマネ、クリスティーナ・ブランコ、アナ・モウラなどにも、それぞれ異なる個性があります。
ファドは過去の形をそのまま保存するだけの音楽ではありません。
伝統を尊重しながら、新しい詩、編曲、楽器、舞台表現を受け入れ、現在も変化を続けています。
ファドのレコードやCDが持つ価値
ファドのレコードやCDの価値は、希少性や取引価格だけでは測れません。
録音された歌と演奏はもちろん、ジャケット写真、解説、歌詞、演奏者表記、レーベルのデザインにも、発売当時の文化が刻まれています。
同じ作品名でも、ポルトガル盤、フランス盤、日本盤などでジャケットや収録内容が異なる場合があります。
SP盤、EP盤、LP盤、カセット、CDと媒体が変わる過程で、音源の編集や音質調整が行われることもあります。
複数の版を比べることは、単なる収集ではなく、一つの音楽がどのように紹介され、受け継がれたかを知る作業でもあります。
盤や付属品から分かること
古いレコードを調べる際は、歌手名と作品名だけでなく、レーベル名、規格番号、回転数、発売国、盤面ラベル、ジャケット裏面を確認します。
初期盤か再発盤かを調べる場合には、権利表記やマトリクス番号が手掛かりになることもあります。
帯、歌詞カード、解説書、内袋などの付属品には、当時の販売方法や聴かれ方を示す情報があります。
サインが入っている場合は、誰の署名かを決めつけず、購入場所、入手時期、同行者の記憶、写真などを一緒に記録しておくことが重要です。
ポルトガルギターを見極めるポイント
中古のポルトガルギターには、演奏用に作られたものだけでなく、土産品や装飾品もあります。
古く見えることや装飾が多いことだけで、製作年代や楽器としての品質を判断することはできません。
確認したいのは、サウンドホール内部のラベル、製作者名、製造地、寸法、材料、修理歴です。
ネックの反り、表板の割れ、胴の変形、ブリッジの浮き、巻き上げ機構の欠品、金属部分の腐食も状態を知る手掛かりになります。
古い楽器に割れや剥がれが見つかっても、家庭用接着剤や塗料で補修するのは避けましょう。
自己流の修理によって音色が変わったり、専門的な修復が難しくなったりする場合があります。
購入時のケース、交換部品、弦、楽譜、領収書なども捨てずに残しておくと、楽器の来歴を伝えやすくなります。
ファドのレコードと楽器を長く残す保管方法
レコードは直射日光や高温多湿を避け、平積みではなく垂直に立てて保管します。
盤面へ指紋を付けないよう、外周とラベル部分を持つことも基本です。
特に注意したいのがSP盤です。
SP盤にはLP盤と異なる材質が使われており、衝撃で割れやすいものがあります。
LP盤と同じ洗浄液や方法が適さない可能性もあるため、材質が分からない盤を安易に水洗いしない方が安全です。
紙ジャケットにカビがある場合は、ほかの資料へ広がらないよう隔離して保管します。
ポルトガルギターは、急激な温度と湿度の変化を避け、安定した場所でケースに収めます。
ただし、古いケース自体が湿気やカビを含んでいることもあるため、楽器と一緒に状態を確認しましょう。
長期間弾かれていなかった楽器は、すぐに調弦せず、ネックや表板に異常がないかを確かめることが大切です。
手放す前に考えたいファド関連品のリユース
聴かなくなったレコードや演奏しなくなった楽器も、次の所有者にとっては新しい出会いになる可能性があります。
廃棄する前に、民族音楽や輸入盤を扱う専門店、弦楽器店、研究機関、図書館、愛好家などへつなぐ方法を検討してみましょう。
手放す際には、レコードなら歌手名、作品名、規格番号、発売国、付属品、盤面状態を整理します。
楽器なら製作者名、購入地、修理歴、寸法、付属品を記録します。
所有者がポルトガルで購入した、特定の奏者から譲り受けたといった情報も、分かる範囲でメモに残してください。
レコード、楽譜、公演プログラム、チケットなどが同じ持ち主のもとに残っている場合、むやみに分けない方がよいこともあります。
一式で残すことで、いつ、どこで、どのようにファドが聴かれていたのかが分かり、文化資料としての意味が深まるためです。
ファドを知れば古い音源や楽器の見え方が変わる
ファドは、単に悲しみを歌うポルトガル音楽ではありません。
港町の歴史、詩の言葉、ファディスタの声、ポルトガルギターの響き、聴衆が静かに耳を傾ける空間が結び付いた文化です。
古いレコードには過去の歌声が、使い込まれた楽器には奏者の時間が残されています。
市場での価格だけに注目するのではなく、誰が作り、誰が演奏し、どのように聴かれてきたのかを調べることで、その品物が持つ本来の価値が見えてきます。
ファドに関する品を見つけたら、すぐに捨てたり自己流で修理したりせず、表記、状態、付属品、来歴を確認しましょう。
音源を聴き、情報を記録し、適切な次の持ち主へ引き継ぐことが、ファドの文化を未来へ残すことにつながります。
お宝エイドでは様々な物品を通じたNPO団体の支援を行うことが出来ます。お宝エイドでは郵送いただいた「お宝」を換金し、ご指定いただいたNPO団体の活動原資として送り届けます。あなたもお宝エイドでの支援活動をはじめてみませんか。
(KOBIT編集部:Fumi.T)
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